ダルマ伝説


 数ある古代帝国の伝説の中でも、ダルマニア帝国の伝説は、その歴史の古さと文明水準の高さ、そして神秘性において群を抜いている。
 ダルマニア帝国はその最盛期には世界のほぼ全域を支配していたと伝えられており、世界各地にダルマニアを思わせる伝説やダルマにちなんだ物品などが残されているが、ダルマニアの首都であったと伝えられているダルマニブルグについては、未だにその所在地がどこであったのかすら判明していない。一説によるとアフリカのサハラ砂漠のどこかであり、現在は全てが砂漠の砂と化しているともいわれているが、最近の研究では、太平洋、ハワイの北西の海に沈んでいるとする説が最も有力とされている。ダルマニア帝国の時代は約300年続いたと言われ、ダルマニウス皇帝家が常に支配の最高位にあった。精神文明の発達により、文化、芸術にはかなり高度なものがあり、ある程度訓練を積んだ者であれば、簡単な遠話や暗視、物質移動などの精神技能が使えたとも言われる。いずれにせよ機械と物質による現代の文明とは全く異なった世界であったことは容易に想像できる。しかしながら、ある日巨大な隕石が首都ダルマニブルグを直撃し、街は一瞬にして地球上から消え去り、ダルマニアの時代は幕を閉じた。また、隕石の影響によって約180年間続いたと言われる地殻変動による地震や火山噴火、地軸のズレによる急激な気温変化、津波や大洪水によって、ダルマニア帝国の築き上げた文化や文明は全て失われ、世界の人類の数も激減したと言われる。エジプトやインドで新たな人類の文明がはじまるのは、その後数千年の後である。
 この物語は、世界各地に残されたダルマニアの伝説を元に、ダルマニア帝国の創世記、帝国の領土をほぼ全世界に広げたと言われるダルマニウス3世の物語を復元したものである。
 ダルマニウス3世は、ダルマニアの創世者、神聖ダルマニウスの孫に当たり、幼名をダルマックといった。彼は、当時世界の約半分だった帝国の領土を一気に全世界へ拡大させた武勇の皇帝であり、数々の伝説を残している。中でも、北方の大国ダルマン帝国の最強の武将であり知略に長けた軍師でもあったダルマーンとの戦いは13年に及び、数々の物語を生んだという。そして、ダルマラカス島での最後の決戦「ダルマカラス島の戦い」において勝利を収めたダルマックはダルマン帝国を崩壊に追い込んだという。


1.凱旋

 よく晴れた、すがすがしい日だった。
 相変わらず戦いの勝利を祝うパレードは賑やかに営まれており、どこの町に行っても静かな時はなかった。
 ダルマック率いる勝利軍はその中を凱旋した。
 ダルマニブルグにあるダルバマー城では、皇帝ダルマニウス2世が自ら出迎えてくれた。大広間に入った一行は、第1の椅子に皇帝、第2の椅子にダルマック、以下位の順に椅子に座り終わると、皇帝が口を開いた。
 「ダルマック、長きにわたりよくやってくれた。これで我がダルマニア帝国も安泰だ」
 「皇帝閣下自らのお言葉、恐悦至極(きょうえつしごく)に存じまする」
 「お前の力も全国に見せつけることができた。これで私も安心して引退することができる」
 皇帝の言葉は、あまりに唐突だった。一同の者たちはしばらく声も出なかった。少したって、やっとダルマックが口を開いた。
 「い、今何と仰せになりましたので?」
 「何度も言わせるな。今日をもって私は引退し、上皇となる。私の後はダルマック、お前が皇帝となり我がダルマニア帝国を治めるがよい。さあ、皇帝ダルマニウス3世の誕生だ。皆の者、祝いの支度じゃ」
 皇帝は勝手に話を進めてしまった。重臣たちもダルマックも話をする暇を与えなかった。
その日は延々とパーティーに明け暮れたが彼は疲れたのか疲れなかったのかも分からなかったという。


2.ダルマニウス3世の即位

 それからちょうど1カ月後、ダルバマー城内の聖ダルマニウス広場でダルマニウス3世の即位の式典が大々的に執(と)り行われることとなった。ダルマニア帝国と同盟諸国の諸侯が集まるには1ヶ月は異例の短期間であったが、それだけ皇帝ダルマニウス3世の誕生は国民の熱望する大イベントだったのである。遠話師たちはあわただしくこのニュースを全世界に向けて伝え、その情報は遠話師から遠話師へと伝えられ、ものの3日で全世界に伝わった。国内では式典の準備が急ピッチで進急ぎでダルマニブルグに向かった。中でも海を越えて最西端の同盟国ダルマジョール諸島連合王国の使節団は、通常の船と馬での移動ではどう急いでも3ヶ月はかかるため、当時非常に危険な移動手段と言われていた瞬間移動を何度か使わなくてはならず、国中から厳選された術師たちとともにダルマニブルグを訪れたという。
 聖ダルマニウス広場はダルマニアの始祖、神聖ダルマニウスの名にちなんで名付けられた、ダルバマー城内でも最も広い広場である。この広場は約15万人の収容能力があるが、式典の日はそれでもあふれんばかりの民衆が押し寄せ、ダルマニウス3世の人気の高さを物語っていた。
 ダルマニア各地、そして同盟諸国の使節団が見守る中、シライダルマー伯爵の軍楽隊がファンファーレを高らかに奏でると、まずは護衛兵の役目を仰せつかったダルマァマーノ、イシダルマー、シモダルマーが白い式典用の鎧に身を包んで現れ、続いて先代皇帝ダルマニウス2世が登場し、そのあと、ダルマニウス3世が登場した。精悍な顔立ちが緊張のためかいつも以上に厳しく、それがより一層新皇帝の力強さ、心強さのような印象を国民に与え、民衆たちはわき返った。
 「みんなに集まってもらったのは他でもない。私は今日をもって皇帝の座から引退する。後の座はダルマック将軍改めダルマニウス3世が引き継ぐ。」
 ダルマニウス2世は民衆にそう伝えると、傍らのダルマニウス3世の方に向き直った。
 「ダルマニウス3世よ。そなたの力の総力を挙げて、我がダルマニア帝国を栄光に導くがいい」
 旧皇帝はそう言って、皇帝の印である王冠を自ら3世の頭にかぶせた。と同時に民衆の興奮は一気に最高潮になり、誰からともなく、ダルマニアの古い聖歌「称えよダルマニア」が叫ぶように歌われ、それは15万人の民衆の大合唱となった。シライダルマー伯爵の軍楽隊も、この曲を演奏する予定であったが、民衆の熱狂に圧倒され、みんなの合唱にあわせてあわてて演奏を始めるというハメになってしまった。
 この騒ぎは向こう一カ月間も続き、世界は喜びに満ちていた。しかし、これが第二の不幸の始まりだとは誰も気が付かなかった。


3.美女ダルマーガレット姫が病に倒れる

 ダルマニウス3世にはダルマーガレットという、絶世の美女と言われた娘がいた。
 ダルマーガレットは式典の日以降、度重なる祝宴に新皇帝と共に同席しては、各国の大使のものや、国内の貴族たちの讃美と驚嘆の言葉をほしいままにした。噂では絶世の美女ということは世界中に知れ渡っていたことだが、実際にその姿、しぐさや人となりを見てしまうと、美女などと言う、今まで自分が抱いていたイメージがいかに貧困で稚拙なものか思い知らされてしまうのだ。
 そんな彼女だが、毎日のようにひらかれる祝宴に疲れたのか、体調が思わしくなくなり、祝宴を欠席することも多くなり、1ヶ月後には遂に寝込んでしまった。皇帝を始め、ダルバマー城の誰もが最初は祝宴の疲れによる一時的な体調不良か、もしくはちょっとした風邪であろうと考えていたのだが、いっこうに治らず、遂にか弱く話すことも起きあがることも、そして目を開くことも無くなってしまった。
 もちろん、その間皇帝付きの医者も何もしなかったわけではなく、色々な治療や検査を試み、
 「国中に触れを出し、医者という医者を集めるのだ。急げ!」
 という皇帝の言葉で、名だたる名医が何人も既にダルバマー城にやってきては、頭を抱えるだけの無意味な検査と治療を繰り返していたのだった。
 「原因は分かりませぬ。どこが悪いというものでもなく、むしろ悪いところが見当たりませぬ」
 どの医者も約束でもしたかのように口を揃えてこう言うのであった。
 「東の地方には妙薬があると聞く。今すぐ薬を取り寄せるのだ」
先代皇帝がそう言うと、ありとあらゆる妙薬が取り寄せられたが、これも効き目は見られなかった。
 精神文明の発達したこの時代だけに、術師たちも集められ、姫の体内をことごとく暗視したり、姫の周囲に不審な霊がとりついていないかを走査したが、これも効果はない。
 ダルマニアの祝典的なムードは一転して暗雲が立ちこめたような重苦しい雰囲気にとって変わり、国中で祝典的な行事の自粛が行われた。


4.仙人ダルマハールの登場とダルマニウス3世の出陣

 皇帝の最後の期待はただ一人の人物に寄せられていた。それは、北の果てにいると言われる伝説の仙人ダルマハールである。ダルマハールは既に700歳にもなると言われているが、その姿を見たものは、少なくともここ100年誰一人として無く、その存在すらも真実か伝説か不明であった。しかし、ダルマハールは実在していれば紛れもなく当時最高の術師であり、いかなる病気もたちどころに原因を究明し、完璧な治療をしてくれるものと思われた。ダルマニウス3世は八方手を尽くしてダルマハールを探していたのである。
 そんなある日、恐ろしく汚い身なりをした年寄りがダルバマー城に立ち寄った。正確に言うと、汚いのではなく、不思議な霧のようなものにつつまれ、実体そのものも半透明のような、空気と混じり合ってその向こうが透けて見えるような存在だったのだ。瞬間移動の術を使うと、移動の瞬間に一時的にそのような状態になることもあるが、そのような状態を常に保っているというのは、当時の警護の者にとっても全く驚き以外の何ものでもなかった。
 「何者だ、ここはダルバマー城、不審なものの入城は許さぬ!」
 警護の者が勇気を振り絞って声をあげたが、老人は見向きもせずに、城門に近づき、慌ててそれを阻止しようとする兵士たちをも意に介さず、城門に溶け込むように消えてしまった。
 瞬時の後に老人の姿は、皇帝の間にあり、衛兵たちが不審な老人のことを報告に来たときには、既に皇帝と老人は向かい合い、何事か会話をしていた。
 「このような現れかたが出来る者はこの世に2人とおるまい。そなたが伝説の仙人、ダルマハールか?」
 皇帝が問うと、老人は不思議な声を発した。それは声と言うよりも、直接皇帝の頭の中に話しかけられているような感覚であった。通常の遠話であればすぐにそれと分かるのだが、老人のそれは、余りにも自然で声なのかそうでないのか殆ど区別できないものであった。
 「皇帝が、国中をあげて探しておられると聞きつけ参上いたした。いかにも、この老体がダルマハールにござる。700年もこの世に生きると、もうすっかり実体と霊体の区別が自分でもつかなくなってしまいましてな。この姿はこの場にあっても実体の自分はダルマハラ砂漠の砂の中かもしれぬし、ダルマリオの森の奥底にあるかもしれぬ。ですからこの私を探し出すなどというのは不可能なこと。さればと思い自ら参上したのだ。用件はわかっておる。早速姫の様子を見よう。この私の目を持ってしても遠方からでは姫の回りに張り巡らされた黒い霧のようなものの中には入ることが出来ぬ。」
 皇帝はダルマハールを姫の部屋に案内した。ダルマハールは入るなり、何かを感じたようだった。
 「やはり、黒い霧が立ちこめておる。」
 もちろん、通常の人間には黒い霧など全く見えなかった。ダルマハールは何やら呪文のようなものを唱えていたが、やがて皇帝の方に向き直り、静かにこう言った。
 「極東の国ダルマスタンにおる妖術使いダルマンダー……奴以外にこのような手の込んだ妖術を使える者はおりますまい。姫の回りには、周到に暗視をごまかす黒い霧が張り巡らされております。恐らく、皇帝の即位の式典の際、ダルマンダーが至近距離から姫の体内に妖術霊を打ち込み、回りには黒い霧の結界を造り、それを説くカギを奴の持つ秘宝に封じ込めたのでしょう。」
 「して、それを解くことはできないのか」
 「この老体もいましがた手を尽くしてみましたが、強力な妖術を秘宝で封じ込めてあります故、この場では何も出来ませんでした。さればダルマンダーから秘宝を奪い、秘宝を破壊してしまうしか手だてはありますまい。」
 ダルマニウス3世の怒りは頂点に達した。
 「おのれ、敵国ダルマスタンめ。ダルマニア帝国に不安と混乱を呼び起こし、何かを企んでいることは間違いない。一刻の猶予も無いぞ。すぐさま出陣の準備をせよ。ダルマスタンをこの手で崩壊させてやる」
 「ダルマの剣が運命を握っていることでしょう」
 ダルマハールは落ちついて言った。
 「ダルマァマーノ、“ダルマの剣”をもてい!」
 “ダルマの剣”とはこの世で最も強靭な物質“ダルマニウム”で作られたこの世にただひとつしかない剣で、この世で切れぬ物ないという幻の剣である。
 こうして、再び大きな戦争が幕を開けようとしていた。


5.ダルマンダーとの戦い

 ダルマスタンは極東の小国である。ダルマニアとの国境付近は砂漠に覆われ、その先には、魔物が棲むと言われる不気味な峡谷があり、その先に、海に面した僅かな平地に約200万人が生活していると言われる。ダルマンダーは国力の乏しさと対照的に、世界でも最も多くの術師、妖術使いがいることでも有名で、それ故にダルマニアもなかなかダルマスタンを攻め落とすには至らなかったのである。ダルマスタンにはダルマロという国王が存在していたが、実権は妖術使いダルマンダーの手に握られていた。妖術使いというのは、術師の中でも悪魔道に通じる信仰と儀式を特徴とする者たちを言い、一般に非常に強い術を使うことが出来ると言われる。ダルマンダーは開眼に100年はかかると言われる妖術を22歳にして全て会得し、地上最強の妖術師として名高いが、悪魔に魂を売った男とも言われ恐れられている。ダルマスタンの国王を始め主だった主要人物は全て若干25歳のダルマンダーの妖術により彼の支配下にあった。
 ダルマニア軍は総勢100万の総力を挙げた軍隊を率いて、ダルマスタンとの国境に着いた。敵国ダルマスタンの軍は僅かに1万、ダルマンダーの副官でもある魔女ナガト・チダルマーの軍約3000が先陣を切り、ダルマンダーを大将の軍約7000が後に続いて到着した様子である。国境付近は完全な砂漠地帯であるが、起伏は激しく、約20メートルの砂の山があちこちに出来上がっている。
 ダルマニア軍はダルマンダーたちを遠くに見渡せる山の一角に陣をはり、軍議を行っていた。
 「敵は少数。いかに妖術使いといえども所詮は人間。多勢で一気にかたずけてしまおうと考えます。ちょうど奴等はこの地点。」
 シモダルマーは地図上の谷間になっている地点を指した。
 「ここと、ここと、ここにちょうど良い山がある。この山に隠れながら軍隊を鶴翼(かくよく)の形に大きく開き、中央からの私の号令と共に一気に敵を左右中央から挟み撃ちにしましょう」
 シモダルマーは常套手段の基本的戦法で手堅く地位を築いた武将である。今回の作戦も敵軍の少なさに対する味方の多勢を考えれば当然の作戦である。
 「ダルマンダーを侮ると大変なことになるぞ」
 同行したダルマハールの忠告もむなしく、シモダルマーの作戦は採用された。中央にシモダルマー軍、左翼にダルマァマーノ、右翼にはイシダルマーを配備した約35万を出動しての攻撃である。
 「行くぞ!」
 体制が整うと、シモダルマーの号令で一斉にダルマニア軍35万はダルマンダー軍へ突撃した。勝負は一気につくかと思われた。しかし、ダルマンダーが宝剣を抜き、天に向けて何やら呪文のようなものを唱えると、不思議なことにたくさんの猛獣が現れた。ダルマァマーノ、イシダルマーの率いる両翼は猛獣たちに完全に前進を阻まれてしまった。
 両翼が動けない間にダルマンターの副官ナガト・チダルマーが悠々と前進し、シモダルマーと対峙する形になった。ナガト・チダルマーはダルマスタンでも首振り魔女として恐れられている人物であり、ダルマンダーの副官として常に行動を共にしている。数で勝るシモダルマー軍が攻撃を掛けたが、ものともせずナガト・チダルマーの軍は激しくクビを縦に振りながら前進してくる。シモダルマー軍の剣による攻撃は全く効果無く、全て首を振る敵軍に蹴散らされてしまった。
 こうして数の上では圧倒的な優勢を誇っていていたダルマニア軍はまんまと中央を突破され、ダルマンダー軍は殆ど無傷のまま陣の後方を固めていたダルマニウス3世の本隊へたどり着いたのである。
 「なんということだ」
 ダルマニウス3世は怒りにふるえ、自らダルマの剣をふるい、ダルマンダー軍の攻撃に応戦していたが、クビをふりながら突撃してくる軍隊の強さは想像を絶するものがあった。
 「ナガト・チダルマーのあの首振りじゃ。あれさえ止めれば敵軍の力は半減する!ダルマニアの除霊音楽を奏でるのじゃ。連中の激しい動きはナガト・チダルマーの動きに呼応しておる。それを分断するにはそれしかない」
 ダルマハールは半透明の体をゆらしながら皇帝にそう言うと、次の瞬間には空気の中に消えていった。
 「よし、分かった、ダルマニア術師隊、きいての通りだ。早速始めよ!」
 ダルマニア術師隊とは、ダルマニア軍のなかでも、魔術部門を担当する特殊部隊であり、精神能力の高い者たちで構成されている。彼らは早速太鼓と木琴を用意してダルマニアの除霊音楽を奏で始めた。
 ダルマハールが泣}ァマーノ、イシダルマー両隊の救援だった。
 「あの猛獣たちは幻じゃ。惑わされるでない。一気にダルマンダーの背後をとるのじゃ」
 ダルマハールはそう言うと、猛獣の一匹をただの紙切れに変えて見せた。
 「所詮奴等の妖術などこんなものじゃ」
 それを見たダルマァマーノは勇気を振り絞り、猛獣たちの群の中に飛び込んでいった。すると、周囲の猛獣たちは紙切れに変わっていった。部下たちもようやく事態を把握してあとに続いた。
 ダルマハールはイシダルマーに対しても同様に妖術を解いて見せたので、ダルマァマーノ、イシダルマーの軍は幻覚から醒め、合流してダルマンダーの背後を取る形となった。ダルマンダーは両翼のダルマニア軍はすっかり無力化したと思って安心していたので完全に虚を突かれる形となった。しかも副官のナガト・チダルマーは前線で苦戦している。勢いに乗るダルマァマーノとイシダルマーは前面に立って剣を振るい、次々とダルマンダー軍の兵士たちを倒していった。
 前線のダルマニア本陣は、やがて無力化したナガト・チダルマーを追いつめ、ダルマンダーたちの戦場に合流してしまった。


6.ダルマンダーの最期

 「おのれダルマニアめ、よくぞここまで善戦したものだな」
 ダルマンダーの軍は体勢を整える暇もなく、次々と倒され、戦える戦力はもはやダルマンダーただ一人である。しかし、ダルマンダーはイシダルマーの剛剣「メタルソード」で切りつけても全くひるむこともなかった。しかも切りつけられた傷口は瞬時にふさがってしまった。
 「妖術使いめ、どんな術をつかっているのだ!?」
 ダルマニウス3世はそう叫ぶとダルマの剣を構えた。
 「ダルマニウス3世。決着をつけるときが来たようだな」
 ダルマンダーは懐から七色の光の変化を見せる玉を取り出し、呪文をとなえばじめた。しかし、すかさずイシダルマーが背後から切りつけるとダルマニウス皇帝も正面からダルマの剣を振りかざした。
 「そのような剣がなんの役にも立たぬことは、既にわかっているだろう。無駄な攻撃はやめ、我が妖術にかかるが良い。安心しろ、殺すつもりはない。この妖術にかかればお前たちは私の忠実な僕となるのだ。姫に妖術をかけ、お前たちを私の前におびき出したのも全てはこのため。さぁ、こっちを向くのだ。」
 「馬鹿者め、お前が剣では倒せぬことぐらいわかっておるわ。私が狙っていたのはこれだ」
 ダルマニウス3世の手にはいつの間にかダルマンダーのもっていた、七色に光る玉が握られていた。
 「ダルマンダー、お前の強力な妖術の源がこの玉だということは既に分かっていたのだ。この秘宝を破壊したときお前の全ての妖術は解けるのだ。覚悟!」
 ダルマニウス3世はダルマンダーの秘宝を投げ上げるとダルマの剣を力一杯振りかざした。ダルマの剣が閃光を放つと、ダルマンダーの秘宝は木っ端微塵に破壊された。
 「うおおおおおおおお」
 ダルマンダーは叫び声を上げると一瞬にして白髪と化し醜い老人の姿となり、倒れ込むと動かなくなってしまった。

 


7.凱旋

 ダルマンダーを倒したダルマニア軍は盛大な歓迎の式典をもって祖国に迎えられた。ダルマーガレット姫はすっかり元気になってその姿を凱旋軍の前に現した。
 「おお、ダルマーガレット!」
 皇帝は美しい姫を抱きしめた。見守る民衆や凱旋軍のものたちも思わず涙ぐんで、誰からともなくダルマニアの古い聖歌がわき上がり、大合唱となった。
「称えよダルマニア!」
 その歌声は首都ダルマニブルグ中に響きわたったとのことである。

 

参考文献
「ダルマニアの謎」ダルマ出版
「ダルマニウス3世」ダルマ出版
「ダルマニア300年の歴史」ダルマ出版
「ダルマハールの大予言」ダルマ出版
「ダルマニウス3世に学ぶ経営学」ダルマ出版
燕曹懐


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